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第162回直木賞候補作品。15年前の事件に執着する監督と、なぜ今更?と思いながら調べていく脚本家の千尋。

2人の女性の視点から、過去を探り、やがてひとつに繋がって行く。

裁判で明らかになる「事実」ではなく、「真実」を知りたいと渇望する長谷部香の過去とは?

 

 

あらすじと感想

 

長谷部香は初監督作品「1時間前」で、国際的な映画祭で特別賞を受賞した新進気鋭の女流監督。

そんな彼女が次の題材にと考えているのは、千尋の地元で起こった一家殺害事件だった。

15年も前の事件で結審もしている事件なのに、なぜ今更?と思いながら、脚本を打診され、事件について調べていく。

 

第1章〜第6章は千尋の視点で、エピソード1〜エピソード7が香視点で綴られる。

 

 

■エピソード1 長谷部香

幼稚園の頃の思い出。

母からベランダに締め出されたとき、隣の部屋の子と手と手で触れあったのは、サラちゃんだったのか?

 

●第1章 甲斐千尋

脚本家の千尋のもとに、気鋭の映画監督・香から新作の依頼が来る。

「笹塚町一家殺害事件」を題材にした作品をとりたいのだと相談される。

 

■エピソード2 長谷部香

父の死後、母の実家・温泉町での暮らし。母が精神を崩したのをきっかけに、横浜の祖父母宅に引き取られる。

 

●第2章 甲斐千尋

法事で笹塚町に帰った千尋は、いとこの正隆に、香の次回作を一緒にやることになったと報告する。

正隆の元カノ・橘イツカを紹介してもらい、笹塚町一家殺害事件の被害者の一人、立石沙良と過ごした中3の日々を語ってもらう。

沙良の虚言癖のせいで、ジュニアオリンピックへの道を閉ざされた過去を話すのだった。

 

■エピソード3 長谷部香

横浜の祖父母の家で過ごす小学生時代の思い出。

父が好きだった映画が「スター・ウォーズ」と知る。

 

●第3章 甲斐千尋

香にもう一度会ってもらうよう連絡し、千尋は、正隆同席のうえで、イツカから聞いた沙良との話を伝える。

香もベランダでの出来事を語る。

正隆は、ベランダにいたのは沙良ではなく、子供たちがネコ将軍と呼んでいた、兄の力輝斗ではないか?と言う。

 

■エピソード4 長谷部香

祖母の卒業した中高一貫のお嬢様校を拒否し、父が通った公立中学へ進学したいと祖父母へ宣言する。

 

●第4章 甲斐千尋

香からの誘いで裁判の傍聴に行った千尋は、香から、裁判の事実、ではなく、被告人の本当の心理状態、真実を知りたいと伝えられる。死刑囚・力輝斗に面会するのは難しく、力輝斗の精神鑑定を最初に行った医師・葛城に会いに行く。

力輝斗が沙良を殺害した理由は、もっと別にあるのではないか、と葛城は考えたが、上司の教授から事実に基づいたうえで問題ないと判断される。

 

■エピソード5 長谷部香

中学2年の時、クラス全員から無視されいじめにあっていた下山兼人に声掛けしたり、いたずらから守ってやったりとする。

それは、死んだ父の正義感や行動力を意識して生活しているからだった。

1学期の終業式の日、下山から相談したいことがあると呼び出された香は、塾の帰りに公園に向かう。映画に誘われたのを断ると、豹変した下山から逃れ、捨て台詞を吐いて逃げ帰った。

 

●第5章 甲斐千尋

香から姉のことを指摘された千尋は、姉の千穂が高校一年の時、ピアノ教室の帰りに事故で亡くなったいきさつを語り始める。

体は消えても存在は消さないよう、姉宛てのメールを打ったり、話しかけたりと、今も生きているようにふるまっていることを。

事故以来開けていない机の引き出しから、姉の日記をみつけた千尋は、好きな人との出来事が綴られているのを発見する。

 

■エピソード6 長谷部香

下山兼人が首をつって自殺した。

ノートの1ページ目に香への謝罪を買いてあったせいで、教師たちが訪問していきさつを聞かれる。下山の母親からも罵倒され、心療内科に通う羽目に陥る。

大学卒業2年後に下山の家を訪ねるが、母親から追い返される。

翌週、下山姉からの手紙が来、「自殺の原因が母にあるのを受け入れないと思い、ノートの1ページ目を破った。」と書いてあった。香への謝罪は2ページ目で、3ページ目以降は姉が書き足したのだった。

その後、下山兼人の最後の1時間を映画化するため、下山家に通い続けるのだった。

 

●第6章 甲斐千尋

おばから、姉と男子が山道から降りてくるのを見たと聞いた千尋は、姉の携帯電話を専門店に持っていく。

千尋の脚本家の先生である大畠凛子と共に、事件現場を訪れる。沙良と同じクラスで、今はカフェを経営している樋口から、交通事故で亡くなった子がいる、その子が沙良と一緒にいるのを見たことがあると聞かされる。それはまぎれもなく姉だった。

立石家が住んでいたアパートで声を掛けてきた女性の話から、ベランダにいたのは力輝斗だと分かる。

携帯電話の充電ができ、携帯電話に入っていた鉄塔そばの樹を掘り返す。手紙の束を包んだクッキー缶がでてきた。

 

■エピソード7 長谷部香

『甲斐千穂というピアノが素晴らしく上手な少女にも中学2年の時スランプが訪れる。

そんな時ネコの好きな少年と知り合い心惹かれあうが、彼には虚言癖の妹がいた。

意地の悪いいたずらにより千穂は事故で亡くなってしまう。虚言癖の妹は「私が殺した」と言い放つ。』

千尋が描いた物語を受け取ったのは、笹塚町にある喫茶<シネマ>だった。父の行きつけだった喫茶のマスターから、常連客用に作っていたマグカップ受け取る。そして、父が自殺ではなく、夕日がきれいな岩場に一人で行き、足を滑らせて亡くなったことを知る。

 

 

 

父が自殺し、母は精神を病み、そのせいで祖父母宅で少女時代を過ごした長谷部香。正義感が強かった父に追いつけ、追い越せと頑張った挙句、同級生の自殺に巻き込まれる羽目になる。

普通なら潰されそうな境遇なのに、世界的な監督になる素質を持った少女は、やはり違うなーと思う。天才的素質の持ち主って、やっぱ違うんだろうなーと、フツーの神経の持ち主である私などは思ってしまう。・・・ならば、こういう境遇に行きたいか? いや、それは、辞めときます。。フツーなので。。

 

その点千尋は、普通の感覚の女性。なので、脚本家としても、ハングリー精神に欠ける?ワンパターンだと言われたりもするが、姉の死の真実を乗り越え、たくましく自立していく。

 

姉に呼び掛けたり、メールを打ったりしてるから、途中まではすっかり騙されてしまった。

 

姉の真実を知ることにより、千尋と香、過去の事件の「真実」が浮かび上がってくる。

 

それにしても・・力輝斗の人生があまりに悲しすぎて胸が詰まる。

それゆえか、、千穂とのシーンがキュンキュン来てしまう。シャボン玉のように儚い時間ではあったが・・

 

 


  • 2024.03.27 Wednesday
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